開花状況

コラム

2022/07/11

愛しい妻をヤマユリに喩えた軍人の話

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皆さんはヤマユリにどんな印象を持っていますか?
吉永小百合さんのように、清楚で理知的なイメージが湧いてくるかもしれません。
艶やかな香りも特徴的で、この季節に生けるという方も少なくありません。

2022/7/6【開花状況】ヤマユリ、アジサイ、ヒマワリ。森に漂う優雅な芳香

 

今回は、このヤマユリにまつわるお話をひとつ。

 

筑波嶺の 早百合(さゆる)の花の 夜床(ゆどこ)にも 愛(かな)しけ妹(いも)そ 昼も愛しけ

これは、常陸国出身の防人(さきもり)大舎人部千文(おおとねりべのちふみ)
が詠んだ歌で、万葉集に選歌されています。

早百合はヤマユリのことで、故郷に置いてきた妻を喩え、夜も昼も愛しいと歌っています。

因みに、「サユリ」を「サユル」と発音したり、
「愛しき」となるべきところが「愛しけ」となっているのは
常陸国の方言、今でいう茨城弁の訛りが出たものです。

朝廷の命令により突然招集され、九州まで飛ばされ、
沿岸部の国防に従事させられた防人たち。

奈良時代のことですから、移動だけでも相当な覚悟を要するでしょう。
一度行ったら帰りは保証されていないようなものです。

戦地へ向かう途中で「歌を詠め!」と言われても、
妻を恋しく思うあまり、つい茨城弁で弱音が出てしまうのもわかります。

バラやヒマワリ咲く園内、ラベンダー染めの香り漂うマーケット

一方で、同防人の作出として、万葉集において次に紹介されているのが、こちらです。

霰降り 鹿島の神に 祈りつつ 皇御軍(すめらみくさ)に 我は来にしを
(鹿島神宮に武運長久を祈り、国を守るための戦いに、俺は来たんだ)

まさにこれから国防戦に挑もうという、武者震いが聞こえてきます。

因みにこちらの歌は、全て標準語で詠われています。
前首と比べて、公の任務を任されている責任感の表れでしょうか。

1200年以上前の一人の軍人の心の中に、
もう会えないかもしれない妻を想う悲痛な気持ちと、
国のミッションを背負っているんだという男らしさが両立しているのがわかります。

現代で言えば、映画『海猿』のような話ですね。

 

フラワーパークと隣接する 花やさと山 のサークルロッジのそばには、
この歌が刻まれた石碑が立っています。

ぜひ、古の国を守った防人に思いを馳せながら、
ヤマユリが麗しく咲くふれあいの森を歩いてみてください。

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